第九夜
著者:shauna


 百物語も残すところあと2人。


 次の順番である明がゆっくりとその手に蝋燭を持ちあげた。

 となりで震えている瑛琶の為にもそれほど怖くなく、尚且つ場の空気を壊さない程度に怖い話を慎重に選び、静かにその口を開けた。



 えっと・・・みなさんの話・・・すっごく怖いモノばっかりなんですけど・・・

 それに比べると、俺の話は短くって、そんなに怖くないと思います。
 だから、先に謝っておきますね。すみません。


 あれは・・・俺がまだ瑛琶と付き合う前・・・



 ある日の部活帰りのことです・・・。



 その日は俺が片付けの当番だったので、すっかり遅くなってしまい、時期が夏の甲子園に向けての県大会の1ヶ月前だったこともあって、本当に、家路についたのは時計の針がテッペンを回りかけるような時間でした。

 まあ、それ自体は珍しいことでもなんでもないんですが、ただ、あの日・・・

 いつもとは違うことがあったんです。
 それは道路でした。


 登校する時には気が付かなかったんですけど、その日は夜間工事があって、いつもの通学路が使えなくって・・・
 
 仕方ないから迂回して、でも、夜遅かったからできるだけ、近道と思われる道を通ろうと思って・・・通ったことのない道を通ることにしたんです。



 それで・・・俺はその日、もう一つイレギュラーがあって・・・
 俺、自転車通学してるんすけど・・・

 帰ろうと思ったら、自転車がパンクしてて、時間も時間だったし、親もこの時間じゃ寝てるから起こすのも悪いと思って・・・仕方なく、ちょっと無理して徒歩で帰ってたんです。


 まあ、そんなわけで・・・いつもは通らない知らない道を歩くことになってしまったんですけど・・・


 あの時は・・・深夜だったこともあって・・・とてつもなく静かな住宅街でした・・・



 一人トコトコその道を歩いていると・・・



 後ろの方からでした・・・













 キ〜コ〜・・・キ〜コ〜・・・

 















 キ〜コ〜・・・キ〜コ〜・・・キ〜コ〜・・・キ〜コ〜・・・












 あれは・・・三輪車を漕ぐような音でした。

 

 でも、その時は、「こんな遅い時間に子供でもいるのかな・・・」程度にしか考えて無くって・・・
 そのままトコトコ歩いてたんです。


 でも、音は相変わらず止まず・・・









 キ〜コ〜・・・キ〜コ〜・・・

 キ〜コ〜・・・キ〜コ〜・・・キ〜コ〜・・・キ〜コ〜・・・







 段々と近づいてくるんです。




 音は段々と近づいてきて・・・













 キ〜コ〜・・・キ〜コ〜・・・キ〜コ〜・・・キ〜コ〜・・・











 俺の横をすり抜けていったんです。




 もちろん・・・子供の姿はありませんでした・・・


 音だけがすり抜けてったんです・・・



 そして・・・音は段々と遠ざかって行き・・・



 ある瞬間のことでした・・・




 音が ピタッと止んだんです。




 多分それと同時だったと思います。

 俺が足を止めたのも・・・









 というのも・・・
 その音が止まった街灯の下あたり・・・










 そこに何かが居るんです。


 ぼんやりとしたそれは・・・真っ赤な三輪車に乗った、大きなピンク色のリボンをつけた女の子でした。



 さらによく目を細めてみると・・・









 どうやら三輪車を止めて、こっちに向かって「おいでおいで・・・」とでも言いたいように手招きをしてるんです。



























 でも・・・


 その時、俺はたまらない恐怖に襲われました・・・


 なぜなら・・・


 その女の子・・・

 


























 顔の左半分が・・・

 無かったんです。











 おまけに、乗ってる三輪車は・・・ボロボロな上に・・・赤く見えたのは血だったんです。





 あの時ほど、慌てて逃げたことはありませんでした・・・。

 それ以降・・・暗い時に知らない道は絶対通らない様にしています。



 

 話を終えて、明は静かに蝋燭を吹き消した・・・。







 「うわぁ〜・・・中々に怖かったわね。」
 部屋の明かりをつけて夏音が“フ〜”とため息を吐く。

 しかし・・・この時・・・
 この部室にもある異変が起きていた・・・。






 「あれ? 瑛琶は? 」

 夏音がそう言うと同時に、その場に居たメンバーが辺りを見回す。
 
 しかし、瑛琶の姿はどこにもなかった。

 
 そしてすぐに恵理は何かに気が付く。

 「あっ・・・」

 そう言って指差した先・・・






 部室のドアが開いていた・・・。


 「あんにゃろう・・・逃げやがったな・・・」



 夏音の言う通り、そこには確実に瑛琶が逃亡した跡が残されていた。




 こんな真っ暗な校内を一人で!!!

 「俺!!!後を追いかけます!!!!」


 アセッた明はそう言って、懐中電灯を片手にあわてて教室を飛び出す。




 そして、すぐに瑛琶が言ったであろう方向へと走り出したのだった。



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